コーティングを塗布して大理石が「窒息死」した例

前回の記事で、コーティングを塗布した石材は研磨のみでは復元不可能とチョロっと書きました。

今回は、大理石にコーティング剤を塗布した結果、「実際に死んでしまった」例をお写真でご紹介します。

何度もこのブログにも書いてまいりましたが、大理石は、見た感じツルツルと硬そうですが、顕微鏡レベルで見るとスポンジのようにスカスカとたくさんの孔があいた柔らかな石です。

この孔を私どもは「ポーラス」と呼びます。

石は、白木と同じで「生き物」と捉えてください。空気を吸ったり吐いたり、息をしなくては生きてゆけない。そういう性質があってこそ、誰しもが「天然」「自然」の風格や温かさを感じることができるのだと思います。

ポーラスは、そうですね、人だったら毛穴のようなものでしょうか。あるいは、肌そのもの?

そこをベッチョリとマニキュアのようなガラス状の塗料で埋めて完全に塞ぐ!ピターっと密着、そして密閉!それが「石材シリコンコーティング」「石材ワックス」です。

この写真の大理石浴室の場合は、築3年で初回のコーティング、その後、2〜3年に一度ペースで数回コーティングを塗布されてきたそうです。

シリコンコーティングとは、透明の塗料で薄いガラス状の膜を作る行為のことです。

「業者さんから言われるままにしてもらっていたのですが、気が付けば、ほんとうに酷い状況になっていて。このままではいけないのかなと思ってネットで調べて。ウォッシュテックに依頼することにしました。」

と、お客様。

確かに、コッテリとコーティングが重ね塗りをされてきており、ヌラヌラとしたところありモヤモヤとしているところあり、もはや石材の質感は全くありません。

新築同然、何事も無かったかのように復元することは困難であるが、全力で最善の方法を採る旨をお伝えし、作業開始。

表面に付着した汚れを取り除いたのち、ダイヤモンドで大理石を研磨してゆきます。既存の劣化したコーティング剤ごと研磨。

しかし、既に深くまで変質してしまっているので、パサパサ、フガフガになっていて、磨けども光沢がいっこうに上がってきません。

上塗りされたら、その時を境に「石材ではない化学的な別の何か」として生きていくことになるのです。

研磨しても戻らない「別の物質」になってしまった大理石は、こうです。

dairiseki-dead0.jpg

「もしかしたら光ってくれるかもしれん。息を吹き返してくれたら良いな」と信じて作業をしているので、通常よりも執拗に研磨しています

なのにこんなにカッサカサー。触るとパッサパサー。ポーラスを完全に塞いで密閉したために起こった「大理石の窒息死」の現場(この場合、ゲンジョウと読むのが正しいかしら…)です。

数万年レベルで形成された化石である大理石ですから、何も化学変化させないでいたら、それこそ数百年くらい屁のカッパで変わらずいられると思うんですよ。

でも、人間が「これを塗ったら、大理石は人間にとって都合の良い石に変化させられるぜ」とかって手を加えると、そこで終わりになっちゃう。

自然って、人間のやることには抵抗できないもんね。大理石って「自然そのもの」だもんね。などとしじみしてしまうのでした。

シリコン系のコーティング剤は、安定した物質ではないので、もちろん経年劣化します。脆くなって脱落する、ヒビ(クラック)が入る、変色する、などの症状が起こります。

浴室では、水分・湿度もあり、温度差も大きいため、コーティング剤の経年劣化は特に早いといえます。

だから、「きっちり研磨できる」技術はマストです。表面を覆っている劣化したコーティングを完全に取り去る技術がなければ、上塗り上塗りで済ませてしまうので、大理石の粉化はより深刻に進行することになります。

そして、シリコン系コーティングを再塗付。

薄く塗布したいところですが、パサパサになっているので、グビグビ吸い込まれていきます。その様子に、「あぁ…本当に傷んでしまっているんだなぁ…」といたたまれない気持ち。

dairiseki-dead1.jpg

次回は、また劣化したシリコンコーティングを取り去って、新たなコーティングを塗布することになります。

マニキュア状のコーティング剤で管理されていた大理石は、それを続けていくしか方策がありません。

いったん窒息死した大理石は、再び息を吹き返すことは無い。だってもう「死んでる」んだもん。

確かに、コーティングを塗布すれば、根を詰めて磨かなくとも、たやすく光沢を得られる。技術もいらず、材料代も安く済むから、当然ながら料金が安い。撥水するからお手入れ簡単、強度も増す、とコーティングの利点を付加させれば、セールストークも上手くいく。飛びつく人も多かろう。

でもさ!今このときが安くて手軽でも、将来が無くなるっていうか、けっきょく高くつくんじゃないかなぁ。

大理石を石材研磨で復元(回復)するためには、今までのメンテナンス方法を把握しておかれることが重要であると思います。

今までの管理の方針によっては、復元できない可能性もあるということ。

その場合、今までのメンテナンス方法と向き合って「まずった」事実を受け入れて頂ける方にしか、最善策を採ることができません。

なお、ウォッシュテックの標準的な石材コーティングは、ポーラスと同じ大きさの分子がピターっと並んで、表面の凹凸の「凹」だけに張り付き、「ポーラスを密閉するかたちで隠蔽しない」仕組みになっています。大理石の窒息事故が無くなるよう開発されたハイテク仕様。

そこいらのコーティングとは一線を画す。健全な大理石を、健全にメンテナンスし、健全に保護する目的です。

日時:2016年1月21日 AM 11:24
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