玄関の床タイルを研磨。
今回のマンションの玄関タイルは、ポテチーノクラシコという名前の大理石です。
象牙のような温かみを感じるアイボリーで、細かめのクラック(ひび割れ)模様が特徴です。
「大理石の玄関って、こんなもんでしょ。相応に古いわけだし。天然石だから、それも味でしょう。」と思われる方が大半かと思います。
しかし、ご覧ください。
ひび割れに汚れが入り込んで黒く汚れています。
表面全体、歩行の衝撃で凹凸になり、カサカサとした質感です。
光度計での数値は「8」です。
光度計は、画像右のセンサーを平面に置き、ピッと光を発出、その光がどのくらいの量で跳ね返ってきているかを数値化する機械です。
つまり、石材表面が不潔であり、表面が崩れて荒れた状態であるということです。
革製品がカビていたら?絵画が排ガスで汚れていたら?いくら元々が高級品や希少品であっても、価値を失い、二束三文の扱いです。
しかし、コンディションを保つためのメンテナンスを施しておれば、ヴィンテージとして認められ、そのもの本来の価値が尊重されますよね。
大理石もその部類のものであるということを知っていただきたいです。大理石はヴィンテージ中のヴィンテージ、なにしろ化石なので!
調度品やアクセサリーであれば、丁寧に扱うことでコンディションを長く保てるかもしれません。例えば手袋を嵌めて触るとか、ケースに入れて飾るとか。
しかし、ここは玄関。家族全員、土足で踏む床です。踏むのみならず、靴を履くとき、ドアを閉めるとき 「踏みにじる」 的な激しい動きさえあります。
触らない方向は非現実的。なので、大理石の玄関に張られた大理石タイルは、価値をキープするため研磨(メンテナンス)必須だと私は考えています。
研磨によるレストレーション後、ポテチーノクラシコのタイル。
はい!これが本来のポテチーノクラシコさんです!
表面はなめらかに平滑、映り込んだ建物の像にも歪みや乱れはありません。
汚れて、表面が無作為に荒れていた事実をお分かりいただけるかと思います。
このように、大理石が研磨によって質感を回復できる技術をご存知の方は、日本人ではほんの一握りだと思います。握りどころか、一つまみくらいだと思います。なんせ、建築設計やデザインの先生もご存じない。
ですからおそらく、ウォッシュテックに石材研磨をご依頼くださる方って、ものすごくチャレンジャーだと思います。周りに「あ、あれね!私もやったことあるわ!」って人が誰もいない中、一人で挑まれるのですから。
半信半疑というところがあるためでしょうか。実際に研磨して、仕上がりを間近で肉眼でご覧になって初めて「これが石のメンテナンスというものか!」と実感される方が多いように思います。
「今までの汚い不潔な状態を 味 当たり前 なんて言ってた自分が恥ずかしいです...!」と、ワナワナされる方を、私は今までたくさん拝見しています。
さて、同じく光度計の画像を。
数値は105。
タイルには、天井に光るダウンライトが、まんまるに映り込んでいます。
上の研磨前の写真と比べてごらんいただくと、ひび割れ模様だと思われていたシマシマが、実は表面に付着した汚れであったことがお分かりになるかと思います。
また、本来のポテチーノクラシコは、のっぺりした一色ではなく、グレー寄りのベージュや黄みを帯びたアイボリーがランダムなモザイク状となって、全体に柔らかく温かな印象を醸すのだと、研磨をして初めてお分かりになることかと思います。
このように、大理石の石の種類それぞれの特徴を明確に表し、大理石本来の機能である「質感そのものがまとう高級」を回復させることがレストレーションの目的です。
なぜお金持ちの家や国家権力を象徴する建物の床に大理石が張られているのか?
入ったとたんバーンと目に入るエントランスや玄関ホールといった位置に使われるのは何故か?
その理由は、大理石のコンディションが、美意識やものの扱い方を露呈し、資産状況も見透かす指標となるからだと言われています。
私には、高品質を見極める文化的教養があり、美意識が高く汚れた感覚を嫌い、良い状態を保つためにはコストを惜しまない、その勢いと覚悟が現在ありますよ。というアピールになるという意味です。
自分の今の内面がモロバレする。沽券に関わる。マウント取られる。ゆえの、じぇったいにピッカピカにキレイにするのです。そして、テリトリーに立ち入った相手にドヤ!と見せつける。
大理石は、張られているだけじゃ高級じゃない。事実、大理石そのものはさほど高価ではありません。もの自体ではなく、常に光って清潔である「現状・状態」に価値がある。というわけです。
日本では、その 「大理石を使う意味・大理石の機能」 知られないまま、どんだけの大理石がガサガサに汚れてくすんでいるのだろうと思うと、しみじみします。
お金なんて掛けないでOKと思ってたところからメンテナンスの費用を捻出するのは大変なこと。
しかし、あまりにも長期に亘りノーメンテナンスの状態ですと、大理石が単なるカルシウム状となり脆く崩れたり白濁したり、大理石としての特性を失います。大理石であることを石みずからがヤメちゃうような感じです。
磨けども磨けどもスカスカと光沢は上がらず、レストレーションの回復度は著しく低下します。ご予算もあるかと存じますが、タイムリミットもある旨、ご参考まで!