アンチ!「傷付ける・削る」お掃除

お客様や友人たちから、お掃除に関する蔵書を拝見することが多いです。

お掃除の実用書やマニュアル、持っておられる方が多いことに驚きます。

重曹やお酢を使ったナチュラルクリーニング本。お掃除をしたら幸せになったりお金持ちで良い人になれるスピリチュアルお掃除本。昔ながらの掃除のコツが書かれたおばあちゃんの知恵袋系の本。節約上手な奥様によるリユース系お掃除術の本。きれい好き・お掃除好きの著者のライフスタイルから学ぶ本。などなど、本棚に数冊並んでいることも少なくありません。

そうして、「この情報って、ホント?正しいの?このお掃除方法って、効果ある?」と、私に見せてくださいます。

私は、本に書いてある方法で、汚れがなくなったり、清潔で美しい状況が保てるなら、いんじゃないだろうか、と考えています。

しかし、本に書かれている内容を忠実に実行したとしても、必ず行き詰まりが出てくる、とも考えています。

汚れが落ちない。ビクともしない。あるいは。そのとき落ちたと喜ぶも束の間、またすぐに強固な汚れがこびりつく。お掃除をされてみるほどに、お掃除本では、解決できない現実を痛感されると思います。

そういうご経験から、ハウスクリーニングをご依頼されるに至られる方が多いように思うからです。

ハウスクリーニングとお掃除の仕上がりの差に、「え、こんなに違うのか」と実感されて、「私の何が違ったのか」と、気になられて、私どもに尋ねられるんじゃないかな、と思います。

傷を付けず、削り落とさず、なめらかに汚れだけを取り除く方法は、汚れそのものの組成や成り立ち、付着している素材の特徴や弱みを、正しく把握していなければ、できることではありません。

どんな汚れが何に付いているのか、読者が何をどのように扱って汚れに立ち向かおうとしているのか、まったく不明なまま方法のみ列挙されたマニュアルには、その方のお住まいに最適な解決策など、載ってません。

そこを、えいやー!と、一冊の本にまとめるわけですから、やはり思い切った力技が入ってきます。この本では汚れが落ちないと言われては名折れ!と、過激なアクロバティックになりがちです。

ハウスクリーニング業者でも難しいとされ、そのままの状況のまま帰るか、粗い目の道具で削り取って帰るかで対処することが大半である「水垢」についての記述をチェックすると、その本が持つ性質がよく分かります。

水垢とは、浴室の鏡を白く曇らせ、浴室の床に白いモヤモヤ模様をこびり付かせ、便器や陶器の洗面ボウルの持つツルリと滑らかな光沢を失わせ、ステンレスのキラリとした輝きをマットにしてしまう、アイツです。

私が拝見した掃除本では、重曹やメラミンスポンジで試して落ちなければ、耐水ペーパーでこすりなさい、と書いてあったものが多かったです。

紙やすりや耐水ペーパーにおける研磨剤の粒目の大きさを「番手」という数値で示します。数値が小さいほど粗く、大きくなるほど細かくなります。

80番>200番>500番>1000番>2000番

と、本によって、番手に大きな幅が見られました。

2000番といえば、かなり細かい、と思われるのではないでしょうか。指の腹で触ると、確かにかなり抵抗感がありません。

しかし、ユニットバスの壁面パネルや人造大理石の洗面ボウルからすれば?親水性のコーティングが焼成されたバスミラーからすれば?

いくら濡らして力を抜いて、ゆっくりこすったって、擦り下ろされてしまいます。それくらい2000番は粗く、対象となる素材は柔らかです。

傷付いて光沢がなくなった!と分かりやすければ、作業を中止できます。でも、細かな番手で試した場合、できた傷や凹凸は肉眼では見えず、もちろん、指の腹で触っても感じることができないかもしれません。しかし、菌や水垢からすれば、確かに段差が出来ていて、引っ掛かりやすい絶好の足場です。削ったあと、すぐに汚れが再付着するのは、傷がついているからです。

80番で擦るなぞ、あな、おそろしや!比較的表面加工が強いとされる旧式の陶器製便器でも、削り落ちてガサガサの凹凸になってしまいます。

「傷付いても、汚れが取れたらいいじゃないの」と、思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、いったん付いた凹凸の傷キズに引っ掛かり、再び付着した汚れは、ツルツル面に乗っかっているだけの汚れとは比べものにならないくらいに、取れにくい。ガッチリ喰い込んで、こびり付いて離れないのです。

かくして、更に粗い研磨材を使い、汚れごと削り落とすようになってゆくのです。力を込めて擦り上げ、ザラザラしたもので磨かなければ、きれいにならない気がする…という気持ちになってゆくのです。

そうして、素材が傷んで弱く脆くなり、早々に劣化してしまい、交換・リフォーム・改修工事しか打つ手が無い状況になってゆきます。そういう手遅れた状況を、私どもは、たくさんたくさん見てきました。しかし、解決策は見つかりません。

なお、ウォッシュテックで使用している水垢除去用のパッドは、番手がついていないものが主です。番手が見つからないほど目が細かいです。しかし、番手があるものもあって、それは、社長に聞いてみると、11000番、とのことでした。いちまんなんぼ!へぇぇ!

出版物に載っているお掃除方法は、「手で作業する」、「なるべく安い、なおかつ全国どこでも簡単に入手できる道具を使って」という条件がありますから、致し方なしかもしれません。

「傷がつくかもしれないから、気を付けて作業すべし」という但し書きをしておけば、それで責任を負わなくてもいいものなのだろうか、それは現場に生きる私どもには良くわかりませんが、私は、掃除本の著者の方のお住まいも、その編集者のお住まいも、けっこうかなり汚れているか、キズキズに削り取られて相当に傷んでいると思います。著作の内容を、ほんとうに実践されているとすれば。

21世紀の住宅は、おそろしくハイテクノロジーかつ繊細に出来ています。それに対して、お掃除本、ちょっと認識が古くて危なっかしいなぁ、というのが私の印象です。

日時:2013年4月 2日 PM 02:22
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